承認を5回通す経費精算を、AI で速くした結果
経費精算に承認が5段階ありました。AI を入れて各段階の入力と確認を自動化したところ、1段階あたりの時間は確かに短くなりました。しかし全体の工数はほとんど変わりませんでした。なぜか。本来2段階で済む承認を5段階のまま速くしただけだったからです。
これが 「汚いプロセスの自動化」 です。非効率な手順をそのまま自動化すると、非効率を高速に回す装置ができあがります。どれだけ高性能な AIエージェントでも、動かすプロセスが非効率なら、非効率を速く正確に繰り返すだけです。試験で「自動化したのに全体工数が変わらない」問題の根本原因を問われたら、ここです。
BPR:改善ではなく、問い直す
BPR(Business Process Reengineering、業務改革) は、いまあるプロセスを少しずつ良くするのではなく、「この業務はなぜ存在するのか」から問い直して根本から作り直す手法です。1990年代にマイケル・ハマーとジェームズ・チャンピーが提唱しました。
- 改善(Improvement): いまあるものを前提に、より良くする。
- 再設計(Reengineering): いまあるものが本当に必要かを問うことから始める。
ECRS:この順番に意味がある
BPR の実践的な道具が ECRS です。4つの問いをこの順序で検討します。順序そのものが本質で、効果の大きい改善から着手し、本来不要な業務を丁寧に効率化する無駄を防ぎます。
| 順 | 問い | 考え方 | 例 |
|---|---|---|---|
| E: Eliminate(排除) | そもそも必要か | 最初に、最も厳しく問う。排除できれば自動化も不要で、効果は最大、コストはゼロ。存在理由を担当者が答えられない工程は廃止の有力候補 | 少額の交通費について領収書の原本提出を廃止し、申告だけにする |
| C: Combine(結合) | 複数の工程を1つにまとめられないか | 分かれている理由が部署の縦割りやシステムの制約なら、統合の余地がある | 紙への記入と提出を、フォーム送信と自動通知に統合する |
| R: Rearrange(順序変更) | この順序に根拠があるか | 慣習や思い込みなら、順序を変えるだけで手戻りや待ち時間が減る | 全項目を入力してから承認を得る流れを、先に概要で方向性の承認を得てから詳細を入力する流れに変える |
| S: Simplify(簡素化) | これ以上削れないか | 工程は残したまま、摩擦を下げる | 自由記述 10 項目を、必須3項目とテンプレートの選択に変える |
Eliminate から始めるのは、「要らない工程」を Simplify で丁寧に磨いても意味がないからです。排除・結合・順序変更を経て残った工程にだけ、Simplify を適用します。試験では、業務フローを示して「ECRS の観点で最初に検討すべき改善はどれか」と問われ、答えは Eliminate にあたる選択肢になります。3つの改善案を E・C・R・S に振り分ける組み合わせ問題も定番です。
順序:As-Is → BPR(ECRS) → To-Be
前の節の As-Is 分析と To-Be 設計の間に、ECRS が入ります。現状を記録し、ECRS で工程を取捨選択し、残った工程であるべき姿を設計する。この順番です。
BPR の限界と、いまの使い方
1990年代の BPR ブームでは、「根本から作り直す」原則が大規模な人員削減と結びつき、現場の抵抗と混乱を招きました。BPR への批判の多くはこの文脈から来ています。
いまの BPR は、白紙からの作り直しではなく、**「プロセスの存在意義を問い続ける姿勢」**として運用します。全社一括ではなく対象業務に絞り、小さく検証しながら広げます。
現実には、ECRS をやりたくても「その工程は社内規則で決まっているので外せない」とスキップせざるを得ない場合があります。その場合は、始める前に関係者と2点を合意しておきます。本来は排除すべき工程を含めた理想像を共有すること、そして理想を適用できない分だけ成果が出るまでに時間がかかり、難しさが上がるというトレードオフを明言することです。責任の分かれ目を明確にし、うまくいかなかったときに個人の責任に単純化せず、次の改善につなげるためです。
試験で問われる観点
- 不要な承認ステップまで自動化され、全体工数が変わらない問題の根本原因(汚いプロセスの自動化。ECRS を経ていない)。
- 3つの改善案を E・C・R・S に振り分ける組み合わせ問題。
- 業務フローを示して、ECRS の観点で最初に検討すべき改善を選ばせる問題(Eliminate が正解)。
- 正しい順序は As-Is 分析 → BPR(ECRS)→ To-Be 設計。
- BPR の提唱者(マイケル・ハマー)と、改善と再設計の違い。