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業務可視化の手法:IPO、SIPOC、HTA、業務フロー図を粒度で使い分ける

第2章 業務の基礎 / 節 3

シラバスのキーワード: 業務可視化IPOSIPOCCustomerHTAアトミック・タスク業務フロー図粒度役割分担要件漏れ

本文を読んだあと、覚えているか確認してください。

「売上データを使っている部署」が抜けていた

受注処理の自動化が完成した後、経営企画部から「月次の売上集計に使っていた受注データの形式が変わって困る」と連絡が来ました。要件を集めたとき、営業と倉庫には聞いたのに、経営企画部に聞いていなかったのです。出力を受け取る相手の洗い出し漏れ、これが可視化の典型的な失敗です。

暗黙知の罠

熟練者が無意識にやっている判断や手順は、本人でさえ言葉にできていません。「どうやっていますか」と聞いても、表面しか出てきません。業務の可視化とは、頭の中にある業務を見える形に外に出すことです。AIエージェントに引き継がせる情報の設計図を作る行為なので、何をどの粒度で可視化するかで、設計の精度が根本から変わります。

4つの手法:粗いものから細かいものへ

可視化の手法は4つあり、粒度が粗い順に IPO → SIPOC → HTA → 業務フロー図と並びます。粗いものから始めて、必要に応じて細かい手法へ進むのが基本です。ただし、単純な業務なら IPO だけで十分なこともあり、4つ全部を使う必要はありません。

IPO モデル

Input・Process・Output の3要素で業務の輪郭を描きます。「何を渡して、何を返してもらうか」を決める最初の整理です。限界は、関係者の情報が見えないことです。

SIPOC 分析

IPO の前後に、業務を依頼してくる主体(Supplier)と、成果物を受け取る主体(Customer)を加えた5要素で整理します。目的は関係者の全体像を把握して要件漏れを防ぐことです。特に Customer(出力の受け取り手)が見落とされやすい。受注処理の出力を受け取るのは顧客と倉庫だけでなく、売上データを参照する経営企画部も含まれます。冒頭の失敗は、SIPOC をやっていれば防げたものです。

HTA(階層的タスク分析)

業務を処理できる最小の作業単位まで階層的に分解します。最小単位をアトミック・タスクと呼びます。目的は、どの作業を AI に任せ、どれを人が担うかを作業レベルで決めることです。各タスクは3つに振り分けます。

担当 向く作業 例
AIエージェント ルールが明確で繰り返し発生し、読み取りや解釈が要る 発注書から品目と数量を読み取る
定型処理(RPA・スクリプト) 判断を伴わない機械的な操作 添付 PDF の取得、データの転記
人 例外判断、倫理的判断、高度な文脈理解 大口注文の受注可否の判断、クレームの感情的な背景の読み取り

どのタスクで人がチェックポイントを持つかを決めることは、Human-in-the-Loop の設計そのものであり、責任構造を透明にすることにつながります。

業務フロー図(スイムレーン図)

4つの中で最も詳細で、IPO・SIPOC・HTA の結果を1枚に統合した集大成です。最大の価値はチームでの認識の統合です。工程の抜け、担当の重複、引き渡しの曖昧さが、図にした瞬間に明らかになります。As-Is と To-Be を並べて見せれば、現場の納得と合意形成も進みます。作図と維持の手間は大きいので、手順と関係者をテキストで渡して生成AI に図を作らせ、人は認識合わせに集中する、という使い方が現実的です。

目的と相手で手法を選ぶ

試験の定番は「この目的に最適な手法はどれか」です。

経営層に全体を説明するなら IPO と SIPOC、現場と役割分担を詰めるなら HTA と業務フロー図、というように、可視化の目的と対象者で選びます。可視化の過程そのものが「この業務は本当に必要か」を問い直す機会になり、BPR の入口になります。

他人の業務を聞き出す5つの切り口

可視化のためのヒアリングは、問題点を指摘する場だと受け取られると、正直に話してもらえません。「あなたの仕事を正しく理解したい」という姿勢で臨み、次の5つを聞きます。

  1. 起点: 何が来たら仕事が始まるか(IPO の Input が明確になる)
  2. どうやるか: 実際に手を動かす順番。実演してもらうのが最も効果的
  3. イレギュラー: AI が詰まるのはほぼ例外ケース。「自分で判断している」と出てきたものが、HTA で人が担う判断処理の候補
  4. 完了条件: 何ができたら終わりか(IPO の Output、SIPOC の Customer に対応)
  5. 関係者: 「あなたが休んだとき、誰がやりますか」が効果的な問い

試験で問われる観点

この節の練習問題(4問)

答えを見る前に選んでから開いてください。同じ問題は章別演習でランダム出題されます。

  1. 問1
    次の目的に対して最適な業務可視化の手法の組み合わせとして正しいものはどれか。(ア) 業務を依頼してくる主体と成果物を受け取る主体を洗い出し、要件の漏れを防ぎたい。(イ) 業務を最小の作業単位まで分解し、どれをAI、どれを定型処理、どれを人間が担うかを決めたい。(ウ) 工程の抜けや担当の重複をチーム全員で確認し、認識を統一したい。
    1. 1(ア) 業務フロー図、(イ) IPOモデル、(ウ) SIPOC分析
    2. 2(ア) SIPOC分析、(イ) HTA、(ウ) 業務フロー図
    3. 3(ア) HTA、(イ) 業務フロー図、(ウ) IPOモデル
    4. 4(ア) IPOモデル、(イ) SIPOC分析、(ウ) HTA
    答えと解説

    正解: 2

    SIPOC分析はIPOにSupplier(依頼主体)とCustomer(受け取り手)を加えて関係者の全体像を把握する手法で、特に見落とされやすいOutputの受け取り手を洗い出せます。HTAは業務をアトミック・タスクまで階層的に分解し、AI・定型処理・人間の担当を作業レベルで決める手法です。業務フロー図(スイムレーン図)は最も詳細で、チームでの認識統合に最大の価値があります。

  2. 問2
    受注処理の自動化を構築した後で、経営企画部門から「売上データを分析用に参照していたのに、新しい仕組みでは取り出せない」と追加要件が出た。どの可視化手法を事前に行っていれば防げたか、理由とともに最も適切なものはどれか。
    1. 1IPOモデル。入力・処理・出力の3要素で業務の輪郭を描くことで、出力データの形式と保存先を要件定義の段階で事前に定義できた
    2. 2業務フロー図。時間軸に沿って工程を並べたスイムレーン図を作ることで、経営企画部門がデータを参照するタイミングを図示できた
    3. 3SIPOC分析。成果物を受け取る主体(Customer)を網羅的に洗い出すことで、顧客や倉庫だけでなく経営企画部門も関係者として特定できた
    4. 4HTA。業務を最小の作業単位まで階層的に分解することで、売上データを分析する作業がどの担当者のどの工程に属するかを特定できた
    答えと解説

    正解: 3

    SIPOC分析の目的は関係者の全体像を把握して要件漏れを防ぐことで、特にOutputを受け取るCustomerが見落とされやすい点に注意します。受注処理の出力は顧客や倉庫だけでなく、売上データを参照する経営企画部門にも届くため、事前に洗い出していれば要件に含められました。HTAは作業の分解、IPOは輪郭の整理、業務フロー図は認識統合が主目的で、関係者の網羅が主眼ではありません。

  3. 問3
    受注処理をHTAで分解した次の3つのアトミック・タスクを、「AIエージェントが処理」「定型処理(RPA・スクリプト)で自動化」「人間が担う」に振り分けた組み合わせとして最も適切なものはどれか。(ア) メールに添付されたPDFを取得して所定のフォルダに保存する。(イ) 発注書の本文から品目と数量を読み取る。(ウ) 大口の注文について、与信や納期の観点から受注の可否を判断する。
    1. 1(ア) AIエージェント、(イ) 人間、(ウ) 定型処理
    2. 2(ア) 人間、(イ) 定型処理、(ウ) AIエージェント
    3. 3(ア) 定型処理、(イ) 人間、(ウ) AIエージェント
    4. 4(ア) 定型処理、(イ) AIエージェント、(ウ) 人間
    答えと解説

    正解: 4

    HTAで分解した各タスクは3分類で担当を決めます。判断を伴わない機械的な操作である添付PDFの取得と保存は定型処理、発注書のような非構造化データからの読み取りはルールが明確で繰り返し発生するためAIエージェント、例外判断や高度な文脈理解を要する大口注文の受注可否は人間が担います。この分担がHuman-in-the-Loopの設計と責任構造の透明化に直結します。

  4. 問4
    4つの業務可視化手法を粒度の粗い順に並べたものとして正しいものはどれか。
    1. 1IPOモデル → SIPOC分析 → HTA → 業務フロー図
    2. 2業務フロー図 → HTA → SIPOC分析 → IPOモデル
    3. 3SIPOC分析 → IPOモデル → 業務フロー図 → HTA
    4. 4HTA → IPOモデル → 業務フロー図 → SIPOC分析
    答えと解説

    正解: 1

    業務の可視化は粒度の粗い手法から始めて必要に応じて詳細へ進みます。IPOモデルで輪郭を描き、SIPOC分析で関係者を加え、HTAで最小の作業単位まで分解し、業務フロー図(スイムレーン図)でそれらを1枚に統合します。シンプルな業務ならIPOだけで十分な場合もあり、4つすべてを使う必要はありません。