「使う」と「任せる」の違いはどこにあるか
ChatGPT にメールの下書きを頼み、できた文章をコピーして、自分でメールを送る。これは ツールとしての AI 活用です。文章を書く作業だけを AI に肩代わりさせていて、前後の工程(受信を見る、送る、記録する)は人が手でやっています。
一方、「受信したメールを読み、規程を調べ、返信案を作り、担当者の承認を受けて送信し、対応履歴を残す」という流れ全体を AI が進めるのが エージェントとしての AI 活用です。この区別は試験全体を通じて何度も出てきます。
AIエージェントとは、指示や目標を受けて、自分で考え、判断し、行動する AI システムのことです。目標を渡せば、計画を立て、必要な道具を使い、実行し、結果を見て修正する、という繰り返しを自分で回します。
エージェントは3つの部品でできている
人に新しい仕事を任せるときに必要なものを考えてみてください。考える頭、仕事の知識、そして実際に手を動かす手段です。AIエージェントもまったく同じで、3つがそろって初めて機能します。
| 部品 | 中身 | 欠けるとどうなるか |
|---|---|---|
| 頭脳 | LLM。判断と推論のエンジン。どのモデルを選ぶかでコスト・精度・速度が決まる | 決められたルール通りに動くだけの自動化ツールになる |
| 記憶 | ナレッジベース。マニュアル・FAQ・対応履歴など、参照する知識のしくみ | 毎回ゼロからのやり取りになり、会社固有の事情を知らないまま答える |
| 手足 | ツール連携。メール送信、データベース更新、ファイル生成など外部システムの操作 | 答えは出せるが実行できない。高機能な FAQ 検索ツールで止まる |
試験では「この構成はどの部品を持ち、どの部品を欠いているか」を見分ける問題が出ます。たとえば「社内規程を検索して回答を表示するが、申請システムには書き込まない」構成は、頭脳と記憶はあるが手足がない状態です。
自律性の4段階:どこまで AI に決めさせるか
新人に仕事を任せるときも、最初から全部は任せません。「案を作って見せて」から始めて、慣れたら「定型は自分で進めて、迷ったら聞いて」になり、やがて「結果だけ報告して」になります。AIエージェントの自律性も同じ4段階で考えます。
- 反応型: 入力にそのまま反応するだけ。学習も提案もしない。
- 支援型: AI が回答案や判断案を出し、最終決定は必ず人が行う。
- 協働型: 定型のものは AI が自分で完結させ、複雑なものだけ人にエスカレーションする。AI が一部の判断を自律的に行っている。
- 自律型: 目標を渡せば計画から実行まで AI が完遂する。
実務の主流は支援型から協働型です。支援型と協働型の見分け方は、「AI が最終判断を含む意思決定を自分で行っているか」です。回答案を出しているだけなら支援型、定型案件を人の確認なしに完了させているなら協働型です。
進め方は段階的です。まず支援型で運用して精度を確かめ(たとえば FAQ 該当の回答精度 95% 以上)、基準を満たしてから協働型に引き上げます。最初から自律型を目指すのは、新人に初日から決裁権を渡すのと同じです。
何を任せないかの判断基準:やり直しがきくか
「何を任せるか」と同じくらい大事なのが「何を任せないか」です。判断基準は やり直しがきくかどうかです。
- 回答案の作成、分類、下書き → 間違えても人が直せる。任せやすい。
- アカウントの削除、全社への一斉通知、セキュリティ事故への対応 → 一度実行すると取り消せない。不可逆な操作は、自律性のレベルに関係なく、実行前に人の確認を挟みます。
この「人の確認を挟む」設計を Human-in-the-Loop(HITL) と呼び、第3章以降で何度も登場します。
試験で問われる観点
- ツールとしての活用(作業の一部を肩代わり)とエージェントとしての活用(プロセス全体を自律的に推進)の区別。
- 頭脳・記憶・手足の3要素。与えられた構成がどれを欠いているかの判別。
- 自律性の4段階。支援型と協働型の境目は「AI が最終判断を自律的に行っているか」。
- 任せる業務の選び方。不可逆な操作(削除、全社通知、インシデント対応)は AI に任せる対象として最も不適切。
- いきなり自律型にせず、支援型で精度を検証してから段階的に引き上げる。