いま何が起きているのか
「ChatGPT に質問する」のは、もう珍しくありません。この資格が扱うのは、その一歩先です。AIに質問するのではなく、AIに仕事を任せる。たとえば「問い合わせメールを読んで、規程を調べて、返信案を作って、担当者に回す」までを AI が自分で進める使い方です。
AI の広がりは、大きく3つの段階で捉えると分かりやすくなります。
| 段階 | 主役 | 何をしているか |
|---|---|---|
| 作る AI | 研究者・エンジニア | モデルそのものを作る。技術の壁が高く、一般の人は関われなかった |
| 使う AI | ビジネスパーソン | 2022年末の ChatGPT 以降。質問して答えをもらう。今まさに普及中 |
| 任せる AI | AIエージェント | 目標を渡すと、計画・実行・修正を AI が自分で回す。始まったばかり |
試験で問われるのは、個々の流行語ではなく「いま、使う AI から任せる AI へ移る途中にいる」という方向感です。AGI(人と同じように何でもできる AI)や ASI(人をはるかに超える AI)は、定義自体がまだ研究者の間で固まっていません。「確実に来る未来」でも「夢物語」でもなく、不確実な長期シナリオとして扱います。
LLM は「次の一語」を選び続けている
生成AI の中心にあるのが LLM(大規模言語モデル) です。LLM は文章を理解してから答えを書いているわけではありません。「ここまでの文脈の次に来そうな語は何か」を確率で選び、それを何千回も繰り返して文章を作っています。
- 「今日の天気は」の次は「晴れ 60%、曇り 25%、雨 10%…」のように候補が並び、その中から1語を選ぶ。
- 選んだ語を文脈に足して、また次の語を選ぶ。
ハルシネーション(事実でないことを、自信ありげに流暢に答える現象)は、この仕組みから直接出てきます。LLM は「正しいか」ではなく「自然につながるか」で語を選んでいるので、存在しない条文や数字も「それらしく」出てきます。これは故障や欠陥ではなく、いまの言語モデルの構造的な性質です。完全にゼロにはできません。だから後の節で出てくる RAG(根拠の文書を読ませる)や Human-in-the-Loop(人が確認する)が必要になります。
似ているが別の問題として、LLM は主観と客観を区別しません。「この製品は優れています」のような評価の言葉も、事実と同じ口調で出てきます。ハルシネーションと混同しやすいので分けて覚えます。
機械学習の3つの学び方と、生成AI の位置
LLM は機械学習の一種で、機械学習には3つの学び方があります。
- 教師あり学習: 正解付きの例(この画像は猫)で学ぶ。識別・分類に向く。
- 教師なし学習: 正解なしで、データの中のまとまりや構造を見つける。
- 強化学習: 試行錯誤して、うまくいったら報酬で学ぶ。
ディープラーニングはニューラルネットワークを多層にしたもので、最大の進歩は「何に注目すべきか(特徴量)」を人が設計しなくても AI が自分で見つけるようになったことです。これが LLM の土台になりました。
従来の AI の得意分野は「予測・識別」(これは迷惑メールか、不良品か)でした。生成AI は、入力をもとに新しい文章・画像・音声を「生み出す」AI です。企業に眠っているデータの8割以上は、メール・報告書・議事録のような決まった形のない「非構造化データ」で、ここを扱えるようになったことが生成AI の最大のインパクトです。
トークン、コンテキストウィンドウ、お金の話
トークンは LLM が文章を処理する単位です。英語はおおむね1単語が1トークンですが、日本語は1〜数文字で1トークンになるため、同じ内容でもトークン数が多くなりがちです。API(プログラムから LLM を呼ぶ窓口)は従量課金なので、トークン数はそのままコストに直結します。
コンテキストウィンドウは、一度に渡せるトークン数の上限です。最近のモデルでは大幅に広がり、「入らない」という制約はほぼ解消しました。ただし「入る」と「入れるべき」は別です。50ページのマニュアルを毎回まるごと渡すより、質問に関係する部分だけを検索して渡す(RAG)方が、コストも精度も有利です。
API 費用の見積もりは「1回あたりのトークン数 × 月の処理件数」で出します。たとえば1件あたり入力 3,000 トークン(質問文、検索で取ってきた規程の抜粋、システムへの指示)・出力 400 トークンの処理が月 800 件なら、入力 240 万・出力 32 万トークンです。単価を掛けると月数百円から千円台という規模になることが多く、API 費用だけ見れば安い。しかし投資判断は API 費用ではなく、構築費、ナレッジの整備、監視・保守の人件費まで含めた TCO(総所有コスト) で行います。「API が安いから導入」は試験でも誤りの選択肢になります。
識別と生成を分けて、モデルを使い分ける
実際の業務では、1つの仕事の中に「識別的な処理」と「生成的な処理」が混ざっています。ヘルプデスクなら、問い合わせを「パスワード/VPN/その他」に分類するのは識別、回答文を書くのは生成です。
まずタスクをこの2つの性質に分解するのが出発点です。そのうえで、処理の性質と実装方式は別の話として考えます。実務では両方を LLM で処理し、難易度に応じてモデルのグレードを振り分けます。これをモデルルーティングと呼びます。分類のような軽い処理は小型で安いモデル、回答の生成は高性能なモデル、という分け方で、コストと品質を両立させます。
試験で問われる観点
- LLM は「次の語を確率で選ぶ」仕組み。ハルシネーションはその構造から生じる性質で、完全には消せない。
- 作る AI → 使う AI → 任せる AI の流れ。いまは「使う」から「任せる」への移行点。AGI・ASI は定義が未確定。
- API 費用は「1回のトークン数 × 件数」で見積もる。ただし投資判断は TCO で行う。API 費用だけで判断するのは誤り。
- 大量の文書を参照させる設計は、全文入力より RAG(必要部分だけ検索して渡す)が合理的。
- 識別と生成を分解し、難易度でモデルを振り分けるモデルルーティング。