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5Dモデル Step2 Definition(定義・構造化):フローチャート、要件定義書、ペルソナ、合格基準

第6章 AIエージェントを実装する5Dモデル / 節 2

シラバスのキーワード: Definition要件定義書機能要件非機能要件制約条件前提条件ペルソナ間接ユーザー合格基準KPI根拠JSONスキーマDesign

本文を読んだあと、覚えているか確認してください。

「この業務に問題がある」から「この手順をこう分ける」へ

Discovery で「修繕依頼の受付がボトルネックで、AI に向いている」と分かりました。しかし、これだけでは設計も開発もできません。Definition は、選んだ業務を設計・開発に渡せる具体的な形に落とすステップです。成果物は4つあります。

成果物1 業務フローチャート:暗黙知を手順にする

最初の作業は、対象業務を手順として書き出すことです。Discovery では「月 300 時間かかっている」という認識で止まっていました。Definition では、たとえば修繕依頼の受付を次の6ステップに分解します。

  1. 入居者からの依頼をメールまたは Web フォームで受け取る
  2. 物件名・部屋番号・連絡先がそろっているか形式を確認する
  3. 依頼の文章と写真から、設備の種類と症状を読み取る
  4. 症状から緊急度(即日・3日以内・通常)を判定する
  5. 対応できる業者の候補を選び、入居者への初回連絡文を作る
  6. 業者に手配を依頼し、入居者に訪問予定を通知する

そのうえで、各ステップを誰が担うかを決めます。1・2 は定型処理で自動化、3 は AI が設備と症状を読み取り、4 は AI が緊急度の判定案を出して担当者が確定(導入初期は全件を人が確認)、5 は AI が業者候補と連絡文の下書き、6 は担当者の承認後に自動送信。

暗黙知のまま進めると「AI に任せる範囲」と「人が担う範囲」の線が曖昧になり、Design 以降で手戻りが起きます。第2章の HTA や IPO の手法が本格的に使われるのはここです。この粒度の違いが、Discovery と Definition の境界線です。

成果物2 要件定義書:4つの要素

「要件定義書」と聞くと、エンジニアが書く難しい文書を想像しがちです。しかしストラテジストに求められるのは、完全な文書を一人で書き切ることではありません。何を実現したいか、どの品質を求めるか、何を扱ってよくて何を扱ってはいけないかを、叩き台として言葉にすることです。その叩き台に実装側が技術的な補足や修正を加えて、実現できる設計になっていきます。

要件定義書の構成要素は4つです。

要素 問い 例
機能要件 何をさせたいか 依頼文から設備の種類と症状を抽出する、緊急度を3段階で判定する、業者候補を提示する
非機能要件 どの水準で動いてほしいか 受付から判定案の表示まで 60 秒以内、同じ依頼なら判定のぶれがない、24時間受け付ける
制約条件 守らなければならないルール 入居者の国籍・年齢・契約形態を緊急度の判定に用いてはならない
前提条件 すでに満たされているとみなす条件 依頼はメールか Web フォームで届く、物件と設備の情報は管理システムに登録済み

見分け方は、「何をするか」が機能要件、「どの水準でするか」が非機能要件です。試験では「判定案の表示まで 60 秒以内」のような処理時間が非機能要件として問われます。制約条件の「入居者の属性を判定に使わない」は、公平性のための重要な制約です。属性を判定に含めると、人の無意識の偏りが AI に再現されます。

前提条件が実際には満たされていなかった場合(たとえば設備情報が半分の物件で未登録だった)、設計そのものを見直す必要が出るので、先に明確にしておきます。

成果物3 ペルソナ:この人は AI の出力で何を決めるのか

ペルソナは、利用者の典型像です。これが曖昧だと「技術的にはすごいが、誰も使わないエージェント」ができます。

AI のペルソナで大事なのは、年齢や役職ではなく、**「この人は AI の出力をどう使って、どんな判断を下すのか」**です。

ペルソナ B の要求から、「業者への手配文に、症状の詳細と入居者が確認済みの事項を構造化して添える」という機能要件が導かれます。ペルソナが機能要件を決める、という流れを押さえます。

見落としやすいのが 間接ユーザーです。AI を直接操作する人だけでなく、AI の出力を確認・監督する人(この例では手配の結果を月次で確認する物件オーナー担当)もペルソナとして定義します。第2章の SIPOC 分析で学んだ「出力の受け取り手を漏れなく洗い出す」考え方がここで活きます。

成果物4 合格基準:PoC の合否を決める一回限りの線

合格基準は、AI の品質が「業務に使えるレベルに達しているか」を判断する定量的な基準です。Definition で決める理由は、Step4 の PoC で合否を判定するときに使うからです。先に決めておかないと、結果を見てから「これで十分か」を主観で判断することになります。

基準には根拠が要ります。「なんとなく 90% 以上」ではなく、たとえば「設備と症状の読み取りの精度 90% 以上。根拠は、現在の担当者間の判定一致率が 84% で、AI がこれを上回ることを最低条件としたため」のように、業務の現状から逆算します。公平性の基準として、同じ症状で入居者の属性だけを変えた模擬依頼を入力し、緊急度の判定が変わらないことを確認する公平性テストも入れます。

合格基準と KPI の区別も出ます。合格基準は「PoC の合否を判定する一回限りの基準」、KPI は「運用中に継続的に成果を測る指標」です。

試験で問われる観点

この節の練習問題(4問)

答えを見る前に選んでから開いてください。同じ問題は章別演習でランダム出題されます。

  1. 問1
    契約書レビューAIの要件定義書に記載された次の4項目のうち、「非機能要件」に該当するものはどれか。
    1. 11件の契約書のレビュー結果を60秒以内に返し、平日の日中は安定して利用できること
    2. 2契約書のPDFから条項を抽出し、自社の標準契約書との差分を一覧にすること
    3. 3レビューの過程で取引先の担当者の個人情報を評価に用いてはならないこと
    4. 4契約書は必ずPDF形式で法務部門の管理システムに登録されていること
    答えと解説

    正解: 1

    要件定義書の主な構成要素は、AIに何をさせるかを定める機能要件、どの水準で実現するかを定める非機能要件(応答速度、安定性、可用性)、守らなければならない制約条件(法務・倫理・業務ルール)、あらかじめ満たされているとみなす前提条件の4つです。60秒以内・安定稼働は非機能要件、条項の抽出と差分一覧は機能要件、個人情報を評価に用いないことは制約条件、PDFで登録済みであることは前提条件です。

  2. 問2
    営業支援AIのペルソナとして、「AIが作った提案の要約だけを見て商談の優先順位を決める営業マネージャー」と、「要約の根拠となる顧客発言を確認したい営業担当者」を定義した。この2つのペルソナから導かれる設計上の示唆として最も適切なものはどれか。
    1. 12つのペルソナの要求は両立しないため、利用者数の多い営業担当者の要求だけを機能要件に反映する
    2. 2同じ出力でも一方は要約の信頼性を、他方は根拠の具体性を重視するため、要約に加えて根拠となる顧客発言を提示する機能要件が必要になる
    3. 3ペルソナは年齢や役職などの属性で定義するものなので、役職が異なる2人を1つのペルソナに統合して機能要件を単純化する
    4. 4AIの直接の利用者である営業担当者だけをペルソナとし、出力を確認する立場のマネージャーはペルソナから除外する
    答えと解説

    正解: 2

    AI固有のペルソナで重要なのは属性ではなく「この人はAIの出力をどう使って、どんな判断を下すのか」の描写です。出力に求めるものが違えば機能要件も変わり、根拠を求めるペルソナからは「根拠を提示する機能」が導かれます。ペルソナが曖昧だと技術的には優れていても誰も使わないエージェントになります。直接ユーザーだけでなく、出力を確認・監督する間接ユーザーも定義すべきで、SIPOCの「出力の受け取り手を漏れなく洗い出す」考え方が活きます。

  3. 問3
    Definitionの段階で定義する「合格基準」に関する説明として、最も適切なものはどれか。
    1. 1「なんとなく90%以上」のように一般的な目安をそのまま採用すればよく、業務上の根拠を求めると議論が長引いてPoCの開始が遅れるため、根拠の検討は避ける
    2. 2PoCの結果を見てから、実際に達成できた水準に合わせて事後的に設定するもので、事前に決めてしまうと検証の柔軟性を失いプロジェクトが硬直する
    3. 3Development & PoCの合否を判定するための一回限りの定量基準で、現状の担当者間の一致率のような業務上の要求から逆算した根拠をもって設定する
    4. 4運用開始後に継続的に成果を測定するための指標で、Definitionの段階ではまだ設定せず、本番展開後に実測値を見ながら定めることで現実的な水準にする
    答えと解説

    正解: 3

    合格基準はAIエージェントの品質が業務に使えるレベルに達しているかを判断する定量基準で、Definitionで事前に定めなければPoCの結果の評価が主観的になります。設定には現状の担当者間の一致率を上回るといった業務上の要求から逆算した根拠が必要です。合格基準がPoCの合否を判定する一回限りの基準であるのに対し、KPIは運用中の継続的な成果測定に使う指標で、両者は区別します。

  4. 問4
    次の2つの活動が5Dモデルのどのステップに該当するかの組み合わせとして正しいものはどれか。(X) 要件定義書に「見積の妥当性判定の精度を90%以上とする」と記載した。(Y) AIの出力をJSON形式で構造化し、項目ごとの評価根拠を格納するフィールドのスキーマを定義した。
    1. 1(X) Design、(Y) Development & PoC
    2. 2(X) Discovery、(Y) Definition
    3. 3(X) Design、(Y) Design
    4. 4(X) Definition、(Y) Design
    答えと解説

    正解: 4

    要件定義書への記載は「何をどの品質で実現するか」を定義するDefinitionの活動、JSONスキーマの設計は「どう実現するか」を技術的に設計するDesignの活動です。境界線は業務要件の文書化か技術設計かで判断します。Definitionで整理した要件が、DesignのI/O設計やセキュリティ設計に正しく反映されているかを確認するのがストラテジストの役割です。