エージェントの「手足」はどうやってつながるのか
AIエージェントの3要素のうち「手足」は、メールを送る、カレンダーに登録する、顧客管理システムに書き込む、といった外部ツールの操作でした。この接続には API を使います。API は、あるソフトウェアの機能を別のソフトウェアから呼び出すための窓口です。問題は、ツールごとに窓口の形も呼び出し方も違うことです。
旅行先の電源プラグと同じ問題
海外旅行で困るのが電源プラグです。国ごとに形が違うので、行く国の数だけ変換アダプタが要ります。これと同じことが AI とツールの接続で起きます。
AI モデルが3種類、つなぎたいツールが5種類あるとします。個別に接続すると、3 × 5 = 15 本の接続を作って保守しなければなりません。モデル5種類・ツール10種類なら 50 本です。これを M×N 問題 と呼びます(M 個のモデル × N 個のツール)。
もし世界中のプラグが USB のように1つの規格に統一されていたら、アダプタは要りません。AI の世界でその役割を担うのが MCP(Model Context Protocol) です。2024年11月に Anthropic がオープンな標準として公開しました。MCP に対応していれば、モデル側3つとツール側5つを規格に合わせるだけで済むので、3 + 5 = 8 で足ります。
MCP は API の置き換えではない
ここが試験のひっかけになります。MCP は API をなくすものではありません。API の上に、共通の形式をかぶせるものです。ツールはこれまでどおり API を持っていて、MCP がその呼び出し方を統一します。
MCP の価値は2つあります。
- 接続の標準化: M×N 問題が解消する。
- ツール選択の自動化: 個別 API では「どの場面でどのツールを呼ぶか」の振り分けを人が事前にプログラムする必要がありました。MCP では、接続しておくだけで LLM が使えるツールを認識し、依頼に応じてどれを呼ぶかを LLM 自身が判断します。
注意点として、MCP は誰でも作って公開できるオープンな仕組みなので、提供元が信頼できるかを必ず確認します。出所の分からない MCP をつなぐことは、見知らぬ人に自社システムの鍵を渡すのと同じです。
個別 API か MCP か:判断基準は「これから増えるか」
接続先が2つしかないなら、個別 API の方が早くて安いこともあります。判断基準は 今後の拡張計画があるか です。
- 接続先がこの先も増える、使う LLM を切り替える可能性がある → 初期コストが高くても MCP で標準化する方が、後の手戻りが少ない。
- 構成が固定で増える見込みがない → 個別 API で十分。
典型的な失敗は、将来を確認せずに「今は2つだから個別でいい」と決めて、半年後に接続先が8つに増えて作り直すことです。
ストラテジストの役割:技術を決めるのではなく、材料を渡す
MCP を使うか、どう実装するかを決めるのは アーキテクト(技術設計の担当者)の仕事です。ストラテジストの役割は、その判断に必要なビジネス側の情報を整理して渡すことです。渡すべきものは3点です。
- いま接続するツールの一覧と、今後の追加予定
- LLM を切り替える可能性があるか
- ワークフローツール(第4章)の選定状況
この「技術は決めない。判断材料を整える」という立ち位置は、第6章の Design まで一貫してストラテジストに求められるものです。
試験で問われる観点
- MCP と API の関係は「置き換え」ではなく「API の上に共通の形式をかぶせる」。
- M×N 問題: モデル数 × ツール数の接続が、MCP ならモデル数 + ツール数で済む。
- MCP の2つの価値: 接続の標準化と、LLM 自身によるツール選択の自動化。
- 接続方式の判断基準は「今後の拡張計画があるか」。接続先が少なくても拡張見込みがあれば MCP。
- アーキテクトに事前に渡す情報として最も重要なのは、接続先の現在と今後の追加予定。
- 信頼できない提供元の MCP はセキュリティリスク。